スージー・クーパー Susie Cooper ウェブサイト
このホームページは、英国の陶器デザイナーであるスージークーパーの作品を紹介する個人的なサイトです。

スージー・クーパー
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Susie Cooper?

スージー・クーパーのご紹介

スージー・クーパー
ストーリー
The Story of Susie Cooper

スージークーパーの生涯をたどります。

スージー・クーパー
作品ギャラリー
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スージーは1920年代から80年代まで精力的に作品を発表しました。

コレクターズ ノート
For Collectors

スージーに魅了された沢山のコレクターがいらっしゃいます。

コレクターズ・ノート

1.バックスタンプとスージークーパーのデザイン
2.貫入ってなんですか?           

1.バックスタンプとスージークーパーのデザイン

食器の裏には製造メーカーのマークやサインが書かれているのが普通です。これはバックスタンプと呼ばれており、アンティークであるスージー・クーパーの製品にも特徴的なスタンプが押されています。ここではスージー・クーパークーパーの代表的なバックスタンプについて紹介します。
 スージー・クーパーは1922年から29年までグレイ社に在籍していました。彼女は絵付師としてグレイ社に就職しましたが、すぐに希望通りデザイナーに昇格しました。しかし彼女以外にもグレイ社にはデザイナーがいましたから、どの作品が彼女のものか?という疑問が出るのは当然のことです。1927年頃から、いわゆる「デザイナーレーベル」の流行により、バックスタンプに彼女の名前が入るようになりました。ただし、彼女がデザインしたすべての製品に「DESIGNED BY SUSIE COOPER」のバックスタンプが押されていたいたわけではないのです。これが現在、コレクターを混乱させる原因となっています。当時の製品のデザインが収録されたグレイ社のパターンブックは現存していないことから、間違いなく彼女のデザインであると断定できるのは、ちゃんと「DESIGNED BY SUSIE COOPER」と明記してあるものに限られてしまいます。他にスージーのデザインかどうかを調べるには、過去に出版された書籍が大変参考になります。また、バックスタンプの横に手書きの数字がある製品があります。これはパターンナンバーと言われているもので、作品のプロファイルを知る手がかりになることがあります。良く知られているスージーの最初期のコマーシャルデザインはNo.2866であり(現在は、これ以前にも彼女がデザインした製品があることがわかっています)、これ以降が彼女のデザインである可能性があるということですが、実際には3000番代はなく、4000〜6000番台はラスターウェアの一部のみに使われています。7000番台になってスージーのデザインが急増しています。そして彼女は1929年10月にグレイ社を辞めますが、このとき8600位(諸説あり)までパターンナンバーは進んでいたようです。したがってこれより多い数字が入っているパターンはスージーではない可能性が高いと一般的には言われています。しかし在籍中にデザインしたものもある筈ですし、私の個人的な意見として8900番くらいまではスージーのデザインの可能性は充分あると思っています。また、グレイ社の製品で、パターンナンバーの前にアルファベットが書いてある物がありますが(実際にはほとんど”A”です。)、これはスージーがグレイ社を辞めた後の1930年ころから使われているので、”A”が最初についているナンバー(例えばA8261)はスージーのデザインではない可能性が高いでしょう。結局のところ「DESIGNED BY SUSIE COOPER」の文字もナンバーもないものや、書籍等の資料がないものは、スージーのデザインであると「断定」するのは困難ということになるでしょう。最終的には彼女のデザインの特徴から個別に判断せざるを得ません。
 独立後の1930年以降は色々とマークのバリエーションはありますが、基本的にバックスタンプに"Susie Cooper"の文字がありますから問題ないと思います。ただし、独立直後の三角形のゴム印は消えやすく、ほとんど見えないものもあります。でもこのマークもほんの2年ほどしか使われていませんから大きな混乱はないと思います。大変まれですが、1930〜40年代の製品にはバックスタンプがない製品もあります。
 スージークーパーのフェイク(偽物)は現在のところあまり心配は要らないと思います。しかし先日、スージーのフェイクが出回りだした(それもハンドペイントやスタジオウェア)という情報も入っており、今後は注意する必要が出てくるかもしれません。アンティークとしての価値が上がるほどこのような問題が出てくるのは困ったことです。


スージー・クーパーのバックスタンプ一覧

  1921年〜31年。写真のように、スタンプの上下に、「パターンネーム(たとえばHarmonyやSummer timeなど)」が入っているものもあります。
  1923−28年。グレイ社時代のGloria Lustreの製品に使われたバックスタンプ。黒や青色のバリエーションがあります。Gloria Lustreの製品では、特に意味のない記号のような文字である「モノグラム」が一緒に書かれている場合が多いです。
  1926-31年。このバックスタンプは「DESIGNED BY SUSIE COOPER」の文字と共に、スージーがデザインした製品に多く使われました。スージーのデザインにもかかわらず、「DESIGNED BY SUSIE COOPER」の文字がない場合もあります。さらにパターンネームが入っている場合があります。
  1930-61年。左のスタンプのようにロゴの下の文字がMADE IN STOKE-ON-TRENTではなく、HANLEY ENGLANDとあるものは、それより少し早い時期のもので、スージーのデザインである可能性が高いかもしれません。
  1931-61年。1931年にはスージー・クーパーはすでにグレイ社を辞めていますが、グレイ社在籍中にデザインされ、31年以後も売られた作品に関してはこのバックスタンプが使われているケースが多いようです。間違いなくスージーのデザインである作品でもこのマークが使われているものが沢山あります。これがコレクターが迷うひとつの原因と言えそうです。
1930-32年。独立直後の三角形のラバースタンプで、大変珍しいものです。下のTunstall Englandの文字に注目してください。三角の下にBurslem Englandとある同様のスタンプよりさらに古いものです。
  独立後のクラウンワークス社時代。1932-64年。パターンナンバーを書き込む長方形のリーザーブボックスがあるタイプ。リザーブボックスがないものも多く見られます。なお、独立直後の1930年から1932年までは三角形の中にSusie Cooper Productionの文字が入ったラバースタンプが使われました。
  1934-64年。筆記体サインのタイプ。Englandの文字があり、北米輸出品に多く見られる。30年代の製品によく使われています。小物に使われていることが多い。
  1932-64年。筆記体のタイプで、Crown Worksの文字がある。上記同様、カップなどの小物に使われていることが多いです。
  1932-64年。最も有名な「リーピングディア」のバックスタンプ。これにもリザーブボックスがあるものなどいくつかのバリエーションがあります。プレートなどの比較的大きなアイテムに使われていることが多いようです。
   上記のカラーバリエーション。


2.貫入ってなんですか?

 1930-40年代のスージー・クーパーの陶器には「貫入(かんにゅう)」が多く見受けられます。陶器は釉薬(うわぐすり、ゆうやく)を塗ってから窯で焼かれますが、その際、釉薬は溶けてガラスのような層となって陶器の上を覆います。これが冷えて固まるときにヒビ状になったものが貫入です。英語ではCrazingとかCrazeといいます。貫入は素地(陶器本体)と釉薬との収縮・膨張差によって発生する現象であり、焼成後に冷え切るまで数日間は進み、そのあとは止まります。貫入の程度は焼成温度、釉薬の組成、窯の中での位置などが関係しています。現代では技術の向上で目に見える貫入の発生が抑えられていますが、当時の技術では貫入を完全には防止出来なかったのです。現在でも「スージー・クーパー特有の貫入があります」という文章をオークションなどで見かけますが、間違った認識です。当然のことながら、スージー・クーパーの製品にだけ貫入が存在したり、多かったりすることはありません。
 貫入は陶器本体のヒビではありませんから、水が漏れることはないので、使用するには問題ありません。ただし、素地が白い製品では使用に伴い紅茶やコーヒーが次第に貫入に染みて目立ってきます。和物の陶器では貫入はひとつの特徴として扱われていて、貫入に染みるのも”味”とされることが多いようですね。ちなみに磁器にも理論的に貫入はできますが、陶器のように全体に入ることはあまり多くありません。
 熱い飲み物を入れることで貫入が発生することはありません。以前、「スージーのカップを使用していると、熱によって次第に貫入が入る」という”迷信”がありました。確かに陶器は磁器と比較すると低温焼成ですが、それでも1000℃を超える焼成温度とたかだか100℃未満の使用温度は大きく異なっています。陶器本体にも釉薬にも、通常の使用温度は何でもない温度なので、貫入ができるという心配は無用です。スージー・クーパーの製品における「使用すると必ず貫入が発生する」という迷信は、貫入の性質・特徴が関係していると考えられます。製造時において、陶器の素地と釉薬の組成は収縮・膨張率にはかなりの違いがあり、実は目には見えなくても陶器には貫入が存在していることが多いのです。「購入時に全く貫入がない(と言われた、またはそう思っていた)スージーの陶器のカップでお茶を飲んだら、熱によって貫入が入ってしまった!」という話は、実は最初から存在していた貫入が「見えるように」なったのです。非常に薄い(浅い)貫入は光に当てても見えないことがあり、使うことで水分が染みて目に見えるようになり、あたかも「貫入ができた!」と錯覚するのです。また水分は瞬間的に貫入全部に染みるわけではなくて、水分に触れている時間が長いほど染みますから、場合によっては貫入がまるで「成長した」かのように錯覚することもあるでしょう。特にカップの内側はその形の性質上、いろんな角度から見ることができないのでその可能性がお皿より高いと考えます。貫入があるお皿などをお持ちの方は、いろんな角度から見てみると、光の入り具合で貫入があたかも消えたり、見えたりすることがお分かり頂けると思います。ですから見た目には貫入がないスージーの陶器は、使っても全く貫入が見えてこない(貫入に染みない)ものと、残念ながら見えていなかった貫入に水分が染みてわかるようになるものがあることを認識する必要があります。”本当に”貫入がない(見えてこない)カップはどんなに使おうが貫入が「発生」したり、ましてや貫入だらけになることはありません。実際に私も長い間スージーの製品をに使っていますが、そのようなことはありません。ちなみに、eBayオークションなどの海外の出品者の文に、「consistent age crazing (その年代相応の貫入・・つまり何もしなくても時間と共にひどくなるという認識)、crazing due to age or aging(年代による貫入)」という文が目立ちますが、スージーが活躍した英国の出品者が言っているのだから本当だと思ってはいけません。200年も300年も前のアンティークならば話は別ですが、間違った認識です。
 さて、貫入をこれほどまでに気にするのは日本のスージー・クーパーファンだけのようです。当時は貫入を完全に防止することは難しく、陶器の「特徴」のひとつでした。ですから、スージー以外のアンティーク陶器に関しては、売買の時、それほど話題にはなりません。チップやクラック、ヘアライン等は明らかなダメージ(損傷)ですが普通の貫入はダメージとはみなされません。言い方は極端ですが、貫入は存在して当然のようなところがあるからです。ではなぜスージーの製品だけことさら貫入が気にされるのか?これは近年の日本でスージー・クーパーが特別に注目されたことが関係しています。なぜなら、日本ではスージーの製品はアンティーク食器としてではなく、当初は「雑貨」として広まった経緯があります。実際、アンティークとしてはまだ時代が新しかったことも原因でしょう。つまりアンティークという認識が薄い上に、スージーの魅力的なデザインが日本人の心をつかみ、食器なんだから実際に使いたい、でもこの表面のひび割れみたいのは何なの?というところから貫入の誤解が始まり、さらに当時の多くの日本のバイヤーの方々が現地買い付けの際に貫入の有無を問題にしたからではないか?と思っています。このため結果的に、スージーのファンの間で「貫入」の迷信が広まったのでは、と思います。現代の日常使いの食器にはふつう貫入はありませんから、ことさら誤った認識が語られるようになったのかもしれません。
 いずれにしても彼女は実際に使ってもらいたくてデザインしていたと伝えられています。食器はやはり”食器”であり、本来飾る物ではないのです。本当に高価なものは別ですが、ディスプレイだけではなくて使ってみたいものです。ちなみに、ホームページや日本の書籍などで、「スージー・クーパーの食器は英国のどの家庭でも使われていた安価な製品でした」という記述を時々見かけますが、事実と異なっています。特に1930-40年代のスージー・クーパーの製品は一般の英国庶民(大多数を占める労働者階級)には手が届かない高価なものでした。スージー・クーパーの製品は、その当時の中流階級以上(アッパーミドル)の人達の中で、特に流行に敏感でセンスのある人々に受け入れられた「大変おしゃれで上品なのに実用的な」ものでした。確かに彼女のデザインは「パトリシアローズ」に代表される上品な花柄のデザインがある一方で、何をモチーフにしたのかわからないような”奇抜”で”前衛的”なそして”挑戦的なデザインも多くみられました。この多様性もスージー・クーパーの魅力なのでは?、と感じます。現代でも全く色褪せないデザインセンスには感服するばかりです。そのように裕福な家庭で長い間大切にされ、あまり使われなかったものも多かったからこそ、綺麗なままで私たちの手元にやってくるものが多いのです。一方で、1950年代以降のボーンチャイナの製品は日常的に使われることが多くなったために、意外にもナイフ傷や欠け等が多いのが実状です。ボーンチャイナの製品だから、または時代が新しいから綺麗というわけではありません。つまり1930年代の製品よりもボーンチャイナの製品のほうがコンディションのいい物が多い、という話も一概に正しいとは言えないのです。


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