image 〜スージー・クーパーの貫入〜 image

 スージー・クーパーのファンの皆さんは貫入ついての関心が高いと思います。コレクターズノートの中で貫入については書きましたが、この機会に少し補足することにしました。
 通常の陶器は、陶器の素地の上に釉薬を塗ってから1000度を超える温度で焼かれます。その際、釉薬は溶けてガラスのような層となって陶器の上を覆います。焼かれた後は次第に冷えていくわけですが、その時の収縮度が陶器本体の素地と釉薬とで違うのです。この差が大きいと(10%以上と言われています)釉薬がひびのような状態になって固まります。これが貫入です。これは冷え切るまで数日間は進むのが一般的ですが、そのあとは止まります。そして「一般的には」この後、新たに貫入が出来ることはありません。
 つまり今皆さんの目の前にあるスージーのカップに熱い紅茶やコーヒーを入れても新しい貫入は出来ないのです。熱い飲み物が貫入の原因ではありません。でも熱い紅茶やコーヒーが貫入の原因だと聞いたという方がかなりいらっしゃいます。「熱という刺激!?を避ける(つまりぬるいコーヒー・紅茶)」ことは意味がないのです。
 しかしながら、熱い飲み物を入れるたびに陶器本体と釉薬が膨張収縮を繰り返し、その膨張収縮率の違いから貫入が出来るという主張をする方がいます。その原因として、スージーの製品だけが他の窯の製品に比べて特別熱に弱いために貫入が出来ると思っている方もいらっしゃるようです。これらは正しい情報ではありません。それでも??と言う方は以下のように考えるといいでしょう。
 陶器は(磁器と比較すると)低温焼成といわれていますが、それでも軽く1000度を越える温度で焼かれます。1000度とコーヒー・紅茶の温度(沸騰したお湯でも大体90度くらい。カップに入れると60度くらいでしょうか?)を比較してください。あまりにも違うことがわかります。つまり陶器本体にも釉薬にも通常の使用温度は何でもない温度なのです。考えてもみて下さい。もしも熱い飲み物や食べ物を入れることが原因ならば、釉薬がかかった身の回りの陶器のほとんど全てが貫入だらけになっていないと説明がつきません。熱い飲み物を入れるくらいで本当に釉薬がヒビ状になるほど膨張・収縮を繰り返していたら、それこそ食器として成り立たないでしょう。貫入は熱湯を入れることによって出来るのではなく、熱湯によって素地と釉薬が膨張してヒビ状になることもないのです。
 次に、「でも紅茶・コーヒーを入れたら貫入が出来た!」と異論を唱える方がいらっしゃると思います。その答えは・・・、実はそれまで目に見えなかった貫入があったのです。特にカップなどは色々な角度から光を当てることが難しい形をしています。スープ皿や、ボウルもほぼ同じです。つまり光がいろんな角度から当たらない(当てられない)ので、元々貫入があることに気が付かないケースがあります。つまり通常では見えていない貫入が、水分を入れることで、貫入に染みて目に見えるようになったと考えられます。さらに言うと、貫入全部に一瞬に水分が染みこむわけではありません。水分はゆっくり染みていきますから、いかにも貫入が「成長」したり、あたかも「生えた!?」ように、錯覚して感じるだけなのです。もうおわかりのように、「貫入を予防する」ために「熱を避ける」のは意味がありません。貫入は予防するものではなく、既に出来ているものだからです。また熱湯そのものが原因で次第に貫入が見えてくるわけではありません。本来食器は使うために作られたのです。飾るものではありませんでした。確かにアート、デザインの対象になっていますが、それが原点ではありません。陶器(土もの)は磁器に比べると欠点はあります。しかし貫入を恐れるあまり、使用の際に熱という刺激を避ける(熱いコーヒーや紅茶をカップに入れないようにする・・・冷たいミルクを先に入れておいて温度を下げる工夫?をする・・・というような)のは食器としての意味を考えると本末転倒、ナンセンスであると気付かれると思います。冷たいミルクを先に入れるのはなにも貫入を予防するためではありませんし、大体においてぬるいお湯で入れる紅茶はおいしくないですよね。それでも信じられないと言う方は、熱い飲み物を入れているとどんどん貫入が出来てくるのか、毎日、実際にご自分でスージークーパーの食器を使ってみることをおすすめします。上に書いたことは、日常的にスージークーパーをお使いになっている方にはお分かりであると思います。
 それから、これはとても重要なことなのですが、陶器の素地と釉薬の組成は結構収縮・膨張率に違いがあり、実は陶器には目に見えない貫入が存在しているのです(現代物も同様です)。その上で、見た目には貫入がない完品と言われているスージーの陶器にも、使っても全く貫入がない(貫入に染みない)ものと、残念ながら見えていなかった貫入に染みてわかるようになるもの、があることを認識する必要があると思います。つまり貫入にも色々程度があるわけで、これが貫入の扱いを難しくしています。
 言葉の問題なのかもしれませんが、一般的には、「貫入は後から出来る(発生する)ことが多い」という言い方はやはり間違いだと思います。このような発言の裏に今まで話した事実を踏まえた上で、あえて使うならば別ですが、知らない方が聞けば誤解されることは必至でしょう。つまり貫入は「後で気が付くこともある」というのが正解だと思います。ただし「一般的に」と言ったのは厳密には後から出来る貫入もあるからです。なんだ!?、最初に「貫入は新たに出来ることはありません」って言ったじゃないか!と怒られそうですが、実は貫入から陶器の素地に達した水分が素地を膨張させて貫入ができる可能性があります。でもこの膨張は本当に微々たるものです。実に微々たる速度で出来るので全く現実的な話ではありません。相当昔のアンティークでなければ問題にならないことで、100年単位での話です。この貫入のことを経年貫入(後貫入)などと言いますが、実際には気にする必要はありません。貫入が出てきた!という話は先に書いたように、もともとあった貫入が見えてきたことがそのほとんど全てと言っていいからなのです。なぜなら経年貫入がもしも一般的に早い時期から起こるのであれば、現在存在している貫入のない製品の説明ができなくなりますし、スージーの製品に限らず、私たちの持っている陶器、親の年代から大切にされてきた陶器などに貫入がないと説明がつきません。このように、皆さんがお持ちのスージーに貫入があったら、それは作られた時に出来たものと思って下さい。
 「保管しておくだけで貫入が出来る、そしてひどくなる」という話も正しい情報ではありません。ましてや水分と直接触れていない状態で貫入が進む・・・例えば「5cmの貫入が出来た!」という現象は物理学的にも説明がつきません。空気中の水分が原因で貫入ができると言う話は間違いです。ずーっと水に浸けているなら可能性としては高くなりますが。湿気や温度も人が生活する範囲ならば問題にはなりません。日本では磁器のほうが人気が高いみたいですが(例えば古伊万里など)、古来から優れた土ものの陶器を沢山輩出してきました。保管しておくだけで貫入が出来るならば、このような陶器にも年月とともに貫入がどんどん出来て、貫入だらけになっていないと全く説明がつきません。上の説によると、和物陶器の骨董品はすべて貫入だらけになっていないと説明がつかないことになります(まあ、ほとんどのものには最初から貫入があるといってもいいでしょうが・・・)。でも日本は高温多湿だから貫入が出来やすいと言われる方。熱湯が貫入の原因にはならないことは既にお話しました。乾燥がいけないとか、直射日光がだめとか、そういう話にも大きな根拠はないと思います。皆さんのお宅にある、直射日光に当たっている陶器は貫入だらけでしょうか?
 スージーの製品だけことさら貫入が入りやすい(多い)、というニュアンスで話す方がいるようですが、私はこれも疑問に思っています。スージーの陶器だけ貫入がとても多かったり、出来やすかった?ことはないでしょう。当時の技術では完全に貫入なしの陶器を作ることは不可能だったのです。1930年前半、スージーはWood & Sonという会社から事実上専属的に陶器の供給を受けることになりました。グレイ社時代もいろいろな会社からホワイトウェアを供給されていましたが、会社別に見て貫入の程度に大きな違いはありません。なお、1930年代の当時は「経年貫入」などどいう知識はありませんし、製造されてから短時間観察して、貫入が「発生」しなかった品物だけが販売された、などということは一切ありません。ですからスージーが最も活躍した30年代に、貫入の発生を解決できずに沢山の窯がつぶれた、などどいうことはないのです。
 貫入はスージー特有、つまりスージーの食器だけの現象、とかスージーに特徴的であると話す方もいるそうですが、これにはもう言葉がありません。これは全くの誤解です。さらにスージーを扱うお店の中には、「スージーの製品は使うといつかは必ず貫入が入るものなんですよ」と話される所があると聞きました。私の想像では、「完品と説明されて買ったのに、使ったら貫入が出来た(実際は目に見えない貫入が見えてきたのですが)ので、返品したい」というクレームを嫌うことがもともとの原因だと思います。これが、スージーの作品に”必ず後から貫入発生説”を広めた原因のひとつだと思っています。また経年貫入を強調して、「貫入がないものでもこの理論でよく発生する。空気中の水分でも経年貫入を起こすのに十分である」というところもあるようですが、それならば売るときに「このカップは貫入がないので実際に使えますよ」という言葉は全く矛盾することになります。だってこの説明によれば、使えば水分で貫入ができるのですから。使わなくても空気に触れているだけで貫入ができることになります。つまりこの説明だと貫入がいやならば永遠に使うことは出来なくなってしまいます。やはり貴重なお金を払って購入する私たちにとっては面倒くさがらずに正しいことを説明して頂けたらいいのに・・・と思います。
 さらにこれが重要ですが、私たちは上に書いた陶器の性質を理解した上で、貫入がない完品と言われて買ったスージーでも使ったら貫入が見えてくる可能性があるということを認識することも非常に大切だと思います。すべてが販売する側の責任ではないのです。
 「じゃあどうしたらいいの?」という質問があると思いますが、残念ながら確実な解決法はありません。貫入がもともと見える物についてはそれを納得した上で購入できますが、貫入なしの完品と言われた物は、やはり実際に使ってみるしかない、という答えしかありません。だって買うときに「一時間水に浸けて見せて下さい」とは言えませんから。多少参考になるのはカップでは口の所を指で弾いてみることです。特にボーンチャイナでは非常に細かい貫入があっても目で見ただけでは全くわからないことがありますが、こんな場合はじいてみると濁った音しかでないことが多いです。ただしこれは全体にかなり貫入がある場合にしか効果はありません。

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